〜 夏の夜の夢物語 〜



昼間のように明るい……淡いオレンジの電球が……
テンポ良い口調ともっともらしい話と合わさって……
日常ではそれほど珍しくもない品々を…………
あたかも高級品のように感じさせ……
あまりの眩しさに……視線を上へと向ければ…………
色とりどりの提灯が並んだ……さらにその先……
星が綺麗なはずの…………真っ黒なはずの空でさえ…………
夜にだけ……力強い音とともに咲く花で満開になり……
それに負けじと叩かれる……太鼓の音で我に返ると…………
すれ違う人の多さと……沢山の声に圧倒される………………。

……夏祭り。
嫌いではないが……決して好きにはなれない………………雰囲気。
私が望むのは…………静かで……落ち着いている…………
例えば…………私以外には誰もいない図書館のような……
そういう環境とは………………最もかけ離れていて……最も縁遠い場所。
想像しただけでもこの暑い季節を……さらに暑苦しくさせる…………
そんな中で子供は当然……大人ですらも平静を装うことなく……
…………それどころか子供よりもよっぽどはしゃぎ回っている様は…………
この一帯だけ…………時計が狂ってしまっているかのようで……
不思議な光景となって………………私の目に映る…………。

横目であちこちに集まっている……黒山の人だかりを見ながら…………
手にはしっかりと可愛らしい……小さめの紙袋を持っている……
まだかすかに暖かいそれを…………大事に持っている。
丁度焼きたての時に買ったはいいが……食べられなくて…………。
ここに来て…………すぐにわたあめを買ってもらって食べた……
ザラメの甘さも…………たまには悪くなかった……だが…………
もう片方の手にもしっかりと………………
1歩前を歩く……貴兄の服の裾を掴むのに…………
両手が塞がってしまうと……………………困るからな。

食べ物の出店ばかりが続いていたが…………
しばらくして……大きなぬいぐるみに誘われて……
初めて射的を…………やってみた。
全く知らないわけじゃない………………本でも……テレビでも……
たまに出てくることがあるからな…………問題ない……
ワインの栓を小さくしたような……コルクの弾を銃の先端に押し込んで……
引き金を…………引き金を……………………むー。
周りは軽々と引いているというのに…………おかしいぞ?
本当はこんな不良品を掴まされさえしなければ……私が自分で引いたのだが……
仕方がないから…………暇そうにしている貴兄に引かせてやる…………
……………………ありがたく思え。
準備が出来たら……体を思い切り前に伸ばして……最上段に鎮座している…………
あのぬいぐるみに狙いを定めて……………………。




…………おかしい。
確実に大きなひよこのぬいぐるみには当たっている……はずなのに。
何度も何度も当てた…………だけど微塵も動きはしなかった。
そもそもあんなに可愛いひよこに銃弾を当てて落とせ……それが間違っている!!
それぞれ欲しいものは違うにしても…………命中させるだけならともかく……
落とさなければならないから…………だからとといって…………
銃弾を浴びせるというのは……………………酷いではないか。
あんなことを平気な顔でさせる……あの出店は…………
必ず……そう……必ずあのひよこに呪われて…………哀れな末路を辿るに違いない。
こんなキャラメル1つで…………私が騙されると……思うなよ…………。
な……何だ…………何がおかしい!!
私は間違ったことは言ってないぞ!!笑うんじゃない!!…………あうぅ。

それならこっちはどう…………そう言われて……金魚すくいに連れられて……
丸い枠に……紙を張っただけのもの…………ポイを渡された…………。
足元の簡素な作りの水槽には…………赤や黒の金魚が…………
群れを成して……とても涼しげに泳いでいた…………
元気良く泳いでいる奴なんかに暴れられては……こんな薄っぺらいもの……
すぐに破られてしまうに決まっている…………
隅のほうで悠々と泳いでいる……あいつに狙いを定めて…………
……む…………なかなかやるな…………
あっさりと窮地を脱されたことに少々腹が立って…………もう一度…………
…………今度は…………慎重にいかなければな…………。
勝負は一瞬しかないと……しばらく相手の出方を伺いながら………………今だ!!
…………むー。
今度は勢いが良過ぎたらしい…………納得がいかずにさらにもう一度…………
三度目の正直と言うからな……次は絶対にすくい上げてみせる…………
落ち着いて…………しかし狙いを確実に定めて………………勝負!!

1匹だけ……水と一緒に入った透明な袋を受け取ると…………
初めての場所に少々キョロキョロしすぎたのか……疲れてきて……
人の往来が少ない場所を探して一休み…………
ガラスのビンに入ったラムネは…………冷たさも心地良かったが……
中のビー玉も透き通っていて……とても綺麗だった……
しばらく貴兄に寄りかかって…………のんびり花火を眺めていたら…………
段々意識が…………薄れていって……………… …………。






「…………す……さ………………すい……さ………………紫翠さま…………」

誰かに呼ばれる声で気がつくと……私はベッドで眠っていたらしい…………
外は明るく晴れていて……時計はいつもならとっくに起きている時間を指していた…………。

「おはよう御座います、紫翠さま。
ゆっくりお休みのところ申し訳ありませんがそろそろお目覚めくださいませ。」

はて…………昨晩は何をしていただろう?
最近は………………寝る前に何をしていたか覚えていないことが多くなったな…………
ふむ…………今日は記憶力を良くする方法を…………調べてみるか…………。

髪も整えないまま……よろよろ歩き出すと……
ふと目に入ったのは………………
小石の代わりにビー玉の敷き詰められた金魚鉢と…………
その中で優雅に泳ぐ…………真っ黒な出目金……
毎日の習慣で無意識的に覚えている場所まで……危なげに辿り着くと……
暖かいミルクティの入ったポットの側に………………ベビーカステラが添えてあった。
今日作ったのではないのだろう…………すっかり冷めてしまっていたが
ハチミツが入っているのか……ミルクティには悪くない味で……
ほんのり甘くて……………………美味しかった…………

それにしても……どうしたというのだろう…………
ミルクティを飲んだぐらいで…………こんなに体が熱くなるわけがない…………
風邪をひいたわけでも……陽射しが強くて部屋が蒸しているわけでもない………………
こんなに体が熱くなるのはいつも同じ……あの時だけだが…………
…………まさか……な。
そんな特別な日のことだったら…………忘れるはずもなく…………
真夏の夜の夢じゃあるまいし……そうそう都合の良い夢が見られるわけもない………………
ましてやそれが現実だったなら………………正気ではいられないに……決まってる。
そうだろう?…………貴兄♥




〜 Fin 〜
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