〜 ふたりでみるゆめ 〜



    もしも…………夢が一人で見るものじゃなかったなら……
              二人で……1つの夢を見られたならば………………
                      全てが素敵に…………見えたかも知れないのに


















夢も……現実も……酷くつまらないものだった…………
言葉なんて必要ない……伝える必要がなかったのだから…………
ただ見ているだけでよかった…………それは私の夢なのだから……
思った通りにしか続くことのない…………
望んでも……望まなくても…………時計の針のように流れるだけの……
ただ…………感じるものが違うだけ……
興味も……楽しみの一つもなく…………ただ見ることだけが義務であるかのような…………
終わりが全て始まりになってしまう物語…………。
覚えていても何の役にも立たないが……
目覚めて何も覚えていないのは…………生暖かい紅茶のように……
何だか無性に不愉快で…………
……その度に…………後に何も残らないだけ幸せなんだ……
そう……言い聞かせていた………………
現実は…………夢ほど優しく……ミルクティほど甘くは見られなかったのだから…………。

まだ…………鏡だけが唯一の遊び相手だったあの頃………………
大人は本気で相手をする気なんか……微塵も無いのは知っていた……
ただ…………ロボットのように次々出てくる言葉の中に……
可愛いとか……おとなしいといった…………ありきたりな単語が出てきては……
飽き飽きしながらも……何とかやり過ごすだけ…………
実際のところは返事も反応もしなかったからな……ある程度の社交辞令に疲れると
どうしていいかわからず……適当に話を纏めて出て行くのを待ってただけ…………
どうせ本当の目的は……私なんかどうでもいいことは分かってた……
歩き始めるとなかなか壁が見えない長い廊下…………
どうせ使いもしないのに……毎日掃除だけされている…………数え切れない部屋……
端から端までが……顔を動かすだけでは見えない庭…………
それだけでも十分過ぎるほどに…………
その行動がどういう意味を持っていたのかなんて……想像がついた……

あまりにもそんな毎日に飽き飽きしていた時…………
小さな非日常が欲しくなって……
すれ違うメイドや使用人に笑顔を見せて歩いてみたり……
客人にはスカートをつまんで………………
わざとらしいほどにお辞儀してみると…………
屋敷がひっくり返るかと思うほどに…………誰も彼も大騒ぎして……
どこかで転んで頭を打ったんじゃないか……
いやこれは病気かもしれない医者を呼んで検査しよう……
食事におかしな物は使わなかったか……
あの時は誰も知らない書庫の奥で……
あまりの可笑しさに笑わずにはいられなかったな…………
固定観念として刷り込まれたイメージとは不思議なもので……
それがほんの少し……歪んだだけで大きな歪みを生む………………
別に私自身…………特別な事をしたわけでもないのに……
あまりにも唐突に……「ありえない」と思わせる行動1つで……
簡単にこのつまらない毎日が変わるかと思うと……酷く面白かった…………。

しかし……1度はあっても2度目はない…………
飽き易い………………というのは微妙に違えど……
同じようなことを繰り返せば……それはやがて自然になってしまう…………
最初こそ「ありえない」と思わせられたからこそ……楽しかったが……
繰り返すうちにそれが当たり前になってしまい……
その反応が楽しみで苦にならなかった挨拶も…………
いつの間にか作業的になり…………
慣れない事はするものじゃない……誰かがそう言ったかのように……
苦痛と変わるまで時間はそうかからなかった…………。

そしてまた……つまらない日々の繰り返しへと戻っていく…………
記憶の残らない夢に疲れ……機械的に作られたかのような現実をこなす毎日……
いつしか流れる雲の形ですら…………同じ形にしか見えなくなり……
風の吹く時間も……陽の沈む時間も…………鳥が視界を横切っていく時間でさえも……
全く変わらない毎日が繰り返されているようで…………
気が付けば読んでいる本も…………そのページですらも繰り返していて……
嫌だと思っていたはずの繰り返しなのに……その繰り返しに慣れている…………
そんな状況に思わず自分自身が怖くなった……………………。

確かに私は望んだ…………
代わり映えしない日常を……
だが!!
欲しかったのはこんな毎日じゃ…………なかったはずで……
もっと……変わらないけど変わっていく……
それでも……私は変わらないし……変えられもしない…………
こんな……………………
意図的に繰り返されているだけの毎日なんて…………
……………………いらない。

また……目を開ければ今日と同じ明日が来るだろう…………
だけど私は望まない……
それなら小さな変化を起こせばいい……
まずは……夜に眠らなければ目を覚ますことはない…………
それなら似通ったとしても……同じになることはないはずで……
理屈も何もあったものではなかったが……
何故だか……それで十分だと思った…………。



現実と夢はどんなに似ていても違う。
現実は変えられる。
夢は変えられない。
誰かが決めたわけじゃない。
絶対的な普遍の事実であるだけ。
無意識的に生み出されるもうひとつの現実。
現実より優しくてどこまでも自由な現実。
終わらなければいつまでも繰り返される現実。
果てのない現実。
現実だから変われと願う。
現実だから変わる。
変わると歪む。
歪むと終わる。
終わると始まる。
全てを忘れて新しい現実が始まる。
どこまでも。
いつまでも。
影のようにいつでもどこでも側にある。
願えばそこにだってある。
夢は現実の逃げ場所じゃない。
現実が夢の逃げ場所。
追いかけて。
捕まえて。
何時の間にやら見失う。
貴方がいるのは現実?
それとも夢?
答えは誰にもわからない。
それは全てが夢だから。
それは全てが現実だから。
確かめる方法はただひとつ。
夢は一人でしか見られない。
決して二人じゃ見られない。
貴方が一人と思うなら。
終われと願ってみればいい。
願えば終わる。
願えば始まる。
それもまた夢という現実かもしれない。
気が付くまでにどれだけの時間がかかっても。
現実は夢ほど甘くはない。
覚めない夢は無いけれど。
覚めない現実なんてありはしないのだから。



もう眠らない……そう決めたはずなのに…………
はっ……と目を開けてみれば……
何だかとても暖かくて…………
横を見ると……貴兄のだらしない眠り顔……
そういえば…………我侭言って困らせて……
貴兄の横に並んで……当たり前のように目を閉じて………………
…………。

どこまで貴兄はバカなんだ…………
大半をこちらに寄越していたようで……
私は寒い方が好きだと……言っているだろうに…………
これで風邪なんか……うつされようものならいい迷惑だ……
何枚重なっているのか分からない…………
ぶ厚くなった布団をかけ直し……
さっきよりもっと……側に寄って……………………
……腕をぎゅっとして…………眠ったら……
同じ夢が……見られる…………かな?

寝ても覚めても一緒に居られるのなら……
こんなに幸せなことはない…………♥




〜 Fin 〜
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