〜 深緑の並木道を 〜



「…………。」
あえて口には出さず……態度で訴え続けることしばらく……
鈍感の塊である貴兄も……ようやく……気付いたようだ……

一般的には大型連休……ゴールデンウィークと呼ばれていたが……
私にはあまり……特殊なものでもない……
他とはちょっと違い…………普通が……普通じゃないことも……ある。
それなのに……わざわざ私が……人の往来がせわしなく……
休みともなれば……さらに鬱陶しいこと間違いない通りに出て……
賑わいを見せる……オープンテラスのカフェの……
足が……地に届かない椅子になんか……座って……
偶然を装いながら…………まぁまぁの味のミルクティを飲みながら……
貴兄が通りかかるのを待っていたのに…………。

……何度か……それらしい影は見かけた……
だが……どれも全くの別人……
何一つ良さそうな所の見えない……ただの一般人……
あえて言うなら…………普通…………以下。
時に……二人して歩いている男女の姿も見かけた……
連れ立って歩いているのは………………彼女…………だろうか……
しきりに顔を合わせては……笑い合って……
この人波に飲まれぬように……だろうか……手を繋いで……
何処かへ……消えていった…………。
別に……ヒューマンウォッチングがしたくて……
こんな所に居座っているわけではない……
それなら……こんな熱気の篭りそうな場所ではなく……
誰も入れない……私だけの……あの場所で…………
静かに本でも読んでいるほうが……有意義に決まっている……。

……なのに……もう何日も……ここに来ている……
広い砂漠の中で……小さな宝石でも探すかのように……
行き交う人の姿を見ては……落ち着かない足をぱたぱたさせながら……
ずっと………………待っていた……。
友達…………同士だろうか……数人ではしゃぎながら……
何処に行ったらどうする……何を食べよう……などと……
他愛も無い話をしながら……歩いていく者……
こんな中でもスーツに身を包み……いそいそと時計を見ながら歩く者……
そして……………………
奇抜な格好ではないし……別段珍しいものでもない……
だけど……私にとっては一種の憧れのようなものが……そこにはあった……。







「一緒に、出かけようか?」
折角……こちらから動いたのに……
人波に圧倒され……言葉通り……「飲んで飲まれた」……で終わった連休……
浮気を問い詰めるのは……後々にするとして……
使い慣れた日傘を手に……歩いていく事にした……
目的地は……決めてある……
どんなに転んでも……ただでは起き上がるつもりはない……
あの時に……決めた…………
だからこそ……執拗なまでに沈黙という……
私の持つ……数少ない武器を……使ったのだが…………。

普段なら……そう遠くない距離であっても……
面倒な遺言のおかげで……黒塗りの長い車が走り……
周囲に……必要以上の威圧感を与えてしまう……
だが……今日は……それは好ましくない……
散々文句を言って……止めるように言った結果……
あのカフェまでは……これまで通りに連れて行かれ……
そこで待ち合わせをして……歩くことになった…………
全く…………私はいつまで子供扱いなんだ……
だが……ここからはもう邪魔は入らない……
いつもの場所で……ミルクティを飲みながら…………
足をぱたぱたさせて……待つ事にした……。

流石に……時間通りに向かったのでは……
人目に付きすぎるのが嫌で……避けたというのに……
わざわざ目立ちにいくようなものだと……
約束の時間より……大分早めに来たのはいいが……
早すぎて…………つまらない……。
カフェ自体も……開店はもっと遅い時間だったが……
無理を言って…………朝から開けさせた……
それぐらいは……たいしたことはない……
問題は………………私自身……だろうか。

前日は特に……変わったことを……した覚えも無いのに……
眠るまで…………随分……落ち着かなかった……
食事をすれば……度々フォークやナイフを落とし……
本を読めば……ページを飛ばしている事に気付かない…………
階段を登ると……無い1段を踏み外して転びそうになり……
後は…………何をしていたのかすら……覚えていない……
思い出しては……情けない…………と恥ずかしくなり……
いつの間にか……足の動きも止めていたことに気付くと……
かさかさと……春も終わりの木々の葉を揺らす風が吹いて……
その風に押されるようにして……小走りで近づいてくる……
貴兄の姿が……見えて…………。

遅い……お待たせ……全く……ごめん……
まるで定型文のようなやりとりの後……
私は……貴兄の服の裾を引いて……歩き出す……
どこに行くの?……なんて言葉には耳も貸さず…………
日傘を貴兄の腕にぶら下げて……
どこからか……吹かれて飛んできた……
桜の花びらを……横目で追いながら……
皆にとっては普通の場所……
私にとっては未知の場所……
急ぎ足で学校へと……向かった…………。




〜 Fin 〜
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