〜 聖なる夜の過ごし方 〜



「…………。」
「…………。」
…………一升瓶は宙を舞い……
警報ベルが……けたたましく鳴り始めると…………
まるで示し合わせたかのように……火災報知機が作動し……
天井のスプリンクラーが水を撒き散らしながら……
各所の防火扉が次々と閉まったと思えば……
天井のシャンデリアをはじめとする…………
数えるのはバカバカしいほど多くの照明が……
一斉に……付いたり消えたりを繰り返す中……
私は…………騒ぎの中心から……少し離れた……
2階のテラスで……恵那ちゃんと…………お茶を飲んでいた……。



      時は数日前に遡る。



毎年……私も含め…………姉妹が貴兄に会える日は……
指折り数えるほどしかない……
当然…………クリスマスが近くなると……
数少ないチャンス……かつ……世間の風潮としては……
そういう……流れに……ならざるを……得なくなるわけで…………
この時ばかりは……黙っていても…………
考えてることはお互いに……分かってしまう………………。

しかし………………貴兄は1人しかいない……
貴兄の四肢を……引っ張るにしても……手が余り…………
おかしな言い方をするならば……
部位ごとに……細かくバラバラにでもしない限り……
誰かが寂しい思いをすることになる……
ならばいっそ……というわけではなかったが……
皆で集まってパーティーをすれば……条件もイーブン……
そこから先は……なるようになるはず……というわけで……
ひとまず話は付いた……はずなのだが。

腕によりをかけて……料理を作るもの………………
歌やマジックなど……出し物の準備を始めるもの……
唐突に……真っ赤な顔で倒れるもの…………
それをいそいそと担架で運ぶもの……
パーティーを……純粋に喜んで待つもの…………
各々が各々で……出来る範囲内のアピールを始める中……
私は……家の領地内……ほんの隅っこの建物を丸ごと一戸…………
パーティー会場として……用意した……。



だが……当日になって…………
何より一番肝心な……貴兄の都合が悪くなり……
遅れるか……最悪の場合……………………
……来られないかも知れないと……連絡が入った……。

主役が来ないのでは……どうすることもできないが……
不思議と……こういう時は……無駄に前向きになるようで…………
「あんには来てくださいますでしょうか……。」
「兄公は絶対来るよ!! ねー♪」「無論だ。兄御前は必ず来る。」
「そうだよね、にぃやんは来る、よね。」
「そうよ、お兄様が来ないわけがないわ。」
「にいちゃんが来てくれないと始まらないもんねー。」
「兄さんに私の歌、聞いて欲しいです……。」
「にぃたま、来ないの?」
「いいえ、兄さまは来て下さいますわ。」
…………かくしてパーティは予定通り……
始まることとなったのだが……。



「…………。」
「…………。」
階下の騒がしさとは……対照的な静けさが周囲を包む。
屋上の方にふと視線を向けると……
天体望遠鏡が……わずかに見える。
雪こそ降らなかったが……雲は少ない…………
観測には悪くない天気なのだろう……。
「もう少し……飲むかい?」
「…………ん。」
「…………。」
「…………。」
恵那ちゃんとは……たまにお茶を飲む事があるが…………
目の前に置かれているのが紅茶か……コーヒーか……
その側にあるのがケーキか…………ハーモニカか……
多少の違いはあれども……
いつもこんな感じで……静かなものだ……。

しかし……今日は同じものがそれぞれ並んでいる……。
シャンパンの入ったグラスと……クリスマスらしいケーキ。
流石に各自の隠し玉……だったらしく…………
ケーキだけは物凄い数が並び……
さながら高級ケーキショップのような状況で……
本当は全部……少しづつ食べても良かったのだが…………
物陰から……獲物を狙うハンターのような鋭い視線を感じ……
急いだ結果…………それ一つになってしまった……。

見た目は少々不恰好ではあったが……
味は………………悪くない。
ケーキにしては甘さは控えめだが……
決して……足りないわけではない。
…………むしろ……飲み物次第では……丁度いいぐらいの……。
これこそまさに食べる人のことを考えた……………………
……なるほど…………これは上手いアピールだ。
きっと恵那ちゃんも……意図せずとも本能で察して……
このケーキを選んだのだろう…………
これなら甘いものが好きでなくとも……全く問題ない……。

遠くの方で小さな光が……ピカ……ピカと……
わずかに光るのを確認すると…………
「……誰か…………居るか。」
私は側にいた使用人を引きとめて
「瑞葵ちゃんが……電源室でサバイバル中だ……取り急ぎ保護を。
 それから…………防火設備は切っておけ。
 おそらく七輪でも使っているのだろう…………
 火事の心配はないはずだ……代わりに空調を調整しておけ。
 食事は……大丈夫だとは思うが不足のないようにな……。
 まぁ…………すでにそれどころじゃあ……ないみたいだが……フフフ。」
白い息混じりに指示した。

間もなく騒がしい声はいくらかの静寂のあと……
落ち着きを取り戻し…………賑やかな声に戻った……。
それからしばらくの間……
ケーキとわずかな会話のやりとりを楽しんでいると……
もう一度……ピカ……ピカ……と光が見えた。
それを確認して……いい頃合いを見計らって切り出す…………
「……そろそろ……眠る時間だ…………」
「うん……? 兄くんが来るまで待たないのか。」
「待たずとも……貴兄のほうから来る…………必ずな。」
「…………?」
「可愛い妹のことを……貴兄は誰一人……放っておけないだろう……?」
「……そうか。私はもうしばらくここにいることにしよう。」
「…………好きにするといい。」
「それじゃあ、おやすみ。いい夢を。」
「…………ん。」





ここからが……私の勝負。
眠るには眠るが……誰も「ベッドで」とは言っていない。
この建物には『離れ』がある……。
…………貴兄を迎えに行かせた車には……
そちら側の入口に回るよう……
あらかじめ手配しておいた。
そこで目に付くようなところで私が眠っていたとしたら?
貴兄のことだ……まさか素通りなどするわけもなく……
ベッドのあるところまで私を運ぼうとするだろう…………。
それなら誰にもやっかまれることはない……
それに……万が一その途中で目が覚めても………………
あくまで偶然……そうだろう?
先程…………貴兄の到着が近いことは確認した……。
それに……離れの入口は向こうからは遠すぎて見えない……。
貴兄の一番側は……私。
それだけは………………誰にも……譲れない。




〜 Fin 〜
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